気付かないまま進む緑内障 積極的な検診で早期発見を!

私たち人間は、外界から得る情報の8割を視覚情報に頼っています。人生を豊かに過ごすためにも生涯大切にしたい「目」。今回は知っているようで知らない「緑内障」について、専門医の中澤徹先生にうかがいました。


東北大学医学部
眼科学教室
主任教授
中澤 徹 先生

東北大学医学部、同大学院医学系研究科外科学専攻眼科学分野卒業。臨床研究医としての活動に加え、東日本大震災では東北大合同チームで巡回診療を行った。第13回ロート賞など受賞歴多数。

―緑内障とはどのような病気ですか。白内障とはどう違うのですか。

 緑内障は、目から入ってきた情報を脳に伝達する「視神経」に障害が起こり、視野(見える範囲)が狭くなる病気です。
 白内障は、カメラのピントを合わせるレンズのような役割を果たしている「水晶体」が白く濁ることで視力が衰える病気です。緑内障とは支障をきたす部位が異なります。
 一般に、白内障は手術によって視力回復が望めますが、緑内障で一度失われた視野はもとには戻りません。

―緑内障の原因のひとつとなる「眼圧」とは何ですか。

 眼圧とは、簡単に言えば「目の硬さ」のことです。目の中には房水という液体が循環していて、水晶体や角膜など血管を持たない組織に栄養を与えています。ところが、なんらかの理由で房水の流れが滞ると、風船を膨らませたときのように眼球が硬くなります。こうして眼圧が上昇すると視神経が圧迫されて障害を起こし、やがて緑内障を発症します。しかし、なかには眼圧が正常であるにもかかわらず緑内障になる人もいて、このタイプは「正常眼圧緑内障」と呼ばれます。日本人の緑内障患者に最も多く見られ、海外と比べても非常に多い割合です。

―自覚症状はありますか。

 緑内障の初期はほとんど自覚症状がなく、受診したときには病状が悪化しているという方も少なくありません。なぜ視野が狭くなっているのに、自分で気付くことができないのか、その理由のひとつは、脳の高度な情報処理能力にあります。実際には視野異常が起きていても、その部位の映像を脳が補完するため、全体が見えているように錯覚してしまうのです。また、右目と左目で異常のある部位が一致しないため、それぞれが見えない部位を補完し合ってしまうこと、加えて緑内障の症状は年単位でゆっくり進むことも自覚しにくい理由です。

―緑内障になりやすいタイプや体質などはありますか。

 まず40歳以上の人、近視の人、眼圧が高い人、家族で緑内障になった方がいる人が挙げられます。緑内障は酸化ストレスや血流とも関係しますから、寝ている間に血中酸素量が減る「睡眠時無呼吸症候群」の人のほか、冷え性、低血圧、偏頭痛のある人など、血の巡りの悪い人も注意が必要です。
 緑内障は40歳以上の20人に1人がかかる身近な病気ですが、緑内障が見つかった人の9割は自覚症状がなく、眼科に通院していなかったという調査結果が報告されています。緑内障のリスク条件に当てはまる人はもちろん、そうでない人も年に1回、眼科での検診をおすすめします。

―検査や治療について教えてください。

 病院では「眼圧検査」「視野検査」「眼底検査」の3つの検査をしたうえで、緑内障と診断された場合、まずは点眼薬での治療を行います。現在、点眼薬には作用が異なる複数の系統があり、それらを調整することにより眼圧を目標値に向けて下げていきます。眼圧が正常値の「正常眼圧緑内障」も、眼圧を下げることによって進行を抑えることができます。点眼治療を続けても効果が見られない場合は、レーザーや手術治療を行います。

―緑内障の人が日常生活で気を付けることはありますか。

 生活習慣では「眼圧を上げない」「血流を悪化させない」「酸化ストレスをためない」の3つがポイントです。眼圧については、ネクタイで首をきつく締める、うつ伏せ寝をする、雑巾がけなど頭が心臓より下にくるような姿勢をとる、一気に大量の水を飲むなど、意外なことでも上がります。
 また、緑内障のタイプによっては禁忌薬がありますから、市販薬を使う際や生活面で気になることがあればなんでも医師に相談してください。
 現在、日本の失明原因の第一位となっている病気が緑内障です。早期発見のためにも、ぜひご自身の目に関心を持って、違和感がないか日ごろからチェックしましょう。

原因不明に悩む全国の患者さんに最先端の検査治療を提供する専門医 東北地方の医療基盤を支える東北大学病院。眼科学教室の教授を務める中澤先生は、欧米での研究に基づくデータだけでなく、日本人に圧倒的に多い「正常眼圧緑内障」の原因研究にも力を注ぐ専門医。血流・酸素ストレスの測定、血液検査など従来の眼科では行わない検査治療のほか、IPS細胞を利用した再生医療など最先端の研究を行っています。一般の私たちには難しい話ですが、現場に立つ眼科医としての先生のモットーは「患者さんを自分の親と思って診る」こと。「これからの医療は医者任せではなく、患者さんが自分の病気を自分事として捉えることが大切。そのためになにができるかを常に考えています」。やさしく頼もしい中澤先生のもとには、全国から大勢の患者さんが訪れています。 ※初回診療には紹介状が必要です。 東北大学病院 眼科 [診療科目]眼科
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